女性と仕事の未来館 財団法人女性労働協会

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広報誌『未来通信』


女性起業家の成功事例

天然酵母パン【スピカ・麦の穂】代表 降矢恭子さん
○起業のきっかけ
 13年前の9月に店をオープンしたので、ちょうど13年前の7月ごろは、場所も決まり、基礎工事をやり、オーブンも入ってといった時期だった。 開店まで、時間を長くかけることができたので、内装についても大工とじっくり話し合いながら、ゆっくりゆっくり店を作っていった。
 店を始めるまで、一番強く思っていたことは、自分らしい仕事、自分でなければできない仕事をしたいということ。 保母の資格は持っていたが、自分にはどんな技術があるのか、今の自分がやっていきたいこと、本当にこれだと思うことは何なのかと考えながら、 長くいろいろな仕事をしてきた。子供がいるとかそうした条件からではなく、自分がやりたい仕事を自分自身に聞いてみたが、すぐに答えは出なかった。
 夫もパンの製造技術を持ちながら、別の飲食業の経験もあったので、パンか別の飲食業かと考えていた。もう一つ、子供がアレルギー体質だったので、 本当に身体にいい食べ物を選ばなければいけないと常に思っていたこと、共同保育所で手作りのおやつを作っていた経験などから、パンならばできるだけ自然なもの、 材料は、水・塩・酵母菌・国産小麦の4つのみでパンを作りたいと思った。材料を吟味して作りたかったので、夫は材料を知るために自然食品店でアルバイトも経験した。 そのようにして開業するために必要な事柄を身に付けていった。
 本当にやりたいと思ったのは、33歳くらいの時だった。始まりは、ゆっくりだったが夫婦、家族にとっては、生活から生まれたパン屋だった。何かをしたいから、 起業したというよりは、自分たちに合う仕事をしたいということ、子供がアレルギーだったことなど、生活の中の必然から生まれた仕事だった。




○店のコンセプト
 自然酵母のパンがある、ここで作っているということを知ってもらえるようになると、 そういうものを求めている人がたくさんいることにも気が付いた。 大衆的ではないかもしれないが、確実な需要があった。病気を治すためだけでなく、 新しいおいしさとしてのシンプルなパンを求める人も増えていた。 海外旅行に行く人が増え、外国の料理に合うパン、食事に合うパンを知り、それを食べたいと思う人も増えていた時代で、 自分たちがやりたかったことと求められているものが一致したのかもしれない。ニーズが高いから始めたのではなく、 自分たちに必要なことだから始めた。 最初から事業を大きくすることが目的なら、そういう商品を作っていた。
 今では、いろいろなパンがあるが、13年前は天然酵母のパンはめずらしく、それを定着させたかった。 天然酵母には、酵母パン独特の風味は翌日くらいから出始めるという特徴があり、 お客様には、「翌日、味が変わって、変な味がした。」「固い。」などと言われたが、 自分たちの作りたいものがはっきりしていたので、謝るのではなく、それが特徴だといつも説明していた。 これほどよい香りのパンがあるのに知らない日本人はもったいない、もっとこのパンのおいしさを知ってほしいと思ったので、 店のコンセプトを記載するなど、読みたくなるような内容のメニューリストを作ったり、いろいろなアピールをしてきた。

○資金調達
 開業に最低限必要な金額1,450万円を調達するために、自己資金350万円と市民バンクからの融資600万円に加え、 スピカ債権500万円を発行した。できれば借入れを増やさずに、利息もあまり発生しない資金を集めたいという気持ちもあったが、 以前から「パン屋をやるなら協力する。応援する。」と言ってくれていた友人や職場の同僚、学校の友達にどのようなかたちで協力してもらえるかを考えた。 必要な450万円という金額と債権を買ってくれた人たちを自分がきちんと覚えていられる人数、自分なら幾らくらいなら友達の事業に協力できるかを考え、 額面を10万円にした。
 どんなパン屋になるのか目に見ない状況でも、10年後の理想の世界、人との関わりや社会での有り方など、 そうしたイメージを共有できる人は債権を買ってくれると思った。声をかけたり、店で説明会を開いたりして、50口500万円の資金を集めることができた。 債権を募集したというより、周囲の人たちの応援の気持ちが債権というかたちになったと思っている。 債権の利息としては、5%の価値を持つパンやアップルパイを渡している。 お金は出せないが、応援したいと言ってくれた人たちには、起業計画賛同人に名前を記載させてもらった。 それは、こんなに多くの人が事業に賛同しているという一つの力になった。

○店の信用を得る
 自分の思っている信念、根っこが大切。起業への想いを種に例えるなら、種には力がないとだめだと思う。 根ざしていくという強い気持ち、やっていくという強い動機があれば、根は張っていく、 伸びようという気持ちが一番大切だと思う。 やりたいことを変えないで、やりたいと思うことにウソなくやれば、周囲はそれを見ていてくれる。 周囲が見てくれて、人の気持ちがそれを受けとめた時に、人は応援してくれるもの。
 スタッフともきちんと話すようにしている。伝えたいという気持ちを伝えること 、熱意が相手に向っていれば、相手の気持ちも動かすことができる。 共通の仕事についてとことん話し合える仲間になりたいと思っている。お客様もそれを期待している。

○仕事の醍醐味
 美味しいという言葉にまさることはない。自分は、パンを作らないが、どんなにおいしいパンを作っても、 売れなければどうしようもない。パンを作るのは夫なので、自分は売ることに専念しようと思っている。 天然酵母パンを売るプロはいない。自分が一人者になれる。これで行こうと思った。 パンを作らないという立場は、お客様に近い立場なので、職人の言い分、 お客さんの言い分の両方をすり合わせて新しいところに歩み寄らせることができる。

○何かを始めたい、自分の技術を活かしたい人へ
 何をしたいのかを一番シンプルに考えるとよい。本当に作ったものを売りたいのか。売りたいとして、得られるメリット、デメリットは何なのか。 大掛かりな設備が必要な場合、それを揃えてまでもやろうという覚悟があるのかどうなのか。パンを作るなら、家庭用の設備でできる範囲も考えられる。 そこからやってみて、その先、次の段階で起業を考え、会社組織にすることを踏まえた事業計画を立てる。 趣味の範囲なのか、プロとしての道を歩むのか、それは2、3歩の差ではなく、ぐんと大きな高いハードルを何段階か越えるくらいの覚悟と自覚が必要。
 本当にお金をかけても買いたいと思わせる内容のものを提供できるのか。それでやっていくための原価計算と自分の気持ちが続くのかどうか。 見える経費と見えないリスクがあるので、起業計画はよく練ったほうがよい。 趣味の域を越えて、やり続けたいと思う強い動機が自分の中にあるのかどうかを問い直してほしい。 それでも、やりたい気持ちが強いなら、あとは全力投球あるのみ。女性の特質を生かして、しなやかに進んで欲しい。