女性と仕事の未来館 財団法人女性労働協会

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広報誌『未来通信』


パネルディスカッション

テーマ
「IT革新と女性企業家」「ITが作る女性のビジネス」「変わる女性の働き方」


パネリスト
村木 厚子
労働省女政局女性政策課長
内永 ゆか子
日本アイビーエム鰹務取締役

田坂 広志
潟\フィアバンク代表
野村 滋
リクルート「アントレ」編集長

コーディネーター
江上 節子
産能大学助教授


江上  本日は女性のベンチャー、企業家、ITをどう捉えるかということを論じていきたいと思います。
村木  雇用機会均等法の施行から十数年目が経ち、日本女性の職場進出は進んでいるだろうと思われがちですが、なかなかそうではありません。独身女性の就労者と40代から50代のパート勤務者は増加していますが、30代既婚者の職場進出は進んでいません。特に小さな子供を持つ母親の就業率は3割未満で、これは10年前に比らべ減少傾向にあり、その原因は日本古来の自営業や家族従業者が減り、職住接近型の職場がなくなったからです。
 もう一つ大きな問題点として、高学歴の女性ほど中高年での就業率が低いという傾向があり、個人と社会の両方にとって教育投資が無駄になっています。
 ここに、仕事と家庭の両立はまだ難しく、既婚者や子供を持つ女性は働きにくいという状況と高学歴の女性の能力が生かせていないという状況があります。そういった意味では、IT革新と女性企業家ということは、自営や家族従業者に代わる新しい職住接近型の職場、働く時間、働き方を選ぶことができるという、多様で柔軟な働き方を生み出していくキーワードとしてこれから非常に大事になってくるでしょう。
 日本社会の組織は、男性中心あるいは年功中心の価値観が伝統的にあり、この従来型の組織が壊れ難いという中で女性がどれだけ頑張れるかということも大事ですが、一方では新しいルールや組織を自分達で作って働いていく方が近道であるという考え方も出てきています。古い組織の束縛から離れるということと家族としての責任を果たすことができるというこの二つの意味でIT革新と女性の起業ということは期待が大きいと思います。企業で働く女性労働者の中で雇用機会均等法がカバーできる正社員は6割弱であり、法律で男女平等を謳うだけでは女性の能力は活かされないので、新しい働き方を作りだしていくべきとても大事な時期がきています。
江上  自営業、家族従業者は男女ともに戦後大幅な減少傾向にあり、新しい職住接近型の働き方を模索することがこれからのキーワードになるでしょう。
野村  あるデータバンクによると女性経営者の数は、10年前に比べ6倍になっています。女性のみを対象とした起業塾の存在や、マスコミによる女性企業家の紹介によってモデルケースも身近になったので、起業を考える女性は増える傾向にあります。また、男女の違いを考えると、女性は自分のやりたいことを決めて起業する方が多い一方で、男性は独立すること自体が目的である場合が多い。取材の中でもやりたいことを見つけた女性のパワーには驚かされました。
 ITについて、在宅ビジネスを考えている女性もいらっしゃいますが、一つ問題があります。IT化が進むということは経済のゲームに参加する障壁は下がりますが、実力のない人がプロとして食べていけるとうことを保証するものではありません。その点を勘違いしている方も多いようです。パソコンを買ってインターネットに接続するだけでは仕事はできません。今、日本で進んでいることは、経済の市場化です。いわゆる統制経済から市場経済へ、かつてのアメリカやイギリスに起きたことが今後急速に進んでいくと思われます。市場経済とは単純なもので、お客様に選ばれたものだけが残っていけるというものです。ITを使ってお客様に喜ばれるサービスを作る、この一点に尽きます。この点で女性が一ユーザーとして自分の求める商品やビジネスを考えた時に新しい起業の波が起こってくる、そういった部分にとても期待しています。女性の起業について介護や福祉といった分野の枠をはめる論調も存在しますが、市場経済の中でユーザーから支持されるビジネスを考える視点が一番大事です。
 さらにEビジネスと女性の起業が活性化していくためは、@男性の偏見の廃止、Aプロの経営者としての認識といった二つの視点が重要になります。これから起業家を目指す人は、男女問わず勉強と経験をしっかり積んで、男女が互いに歩みよることにより、今後もっと女性の素晴らしい企業家が生まれると思います。
江上  女性企業家について、介護、福祉といった限られた分野の枠を当てはめる傾向があるようですが、企業で働く女性についても職種を限るといったことが過去にはありました。女性向きの分野、男性向きの分野といった偏見的な考え方がまだ私達の中にあるのかもしれません。
内永  私が、スモールビジネスについて興味を持ったきっかけは、約一年前、世界中の女性がもっと活発にビジネスに参加できるようにと活動するアメリカのNPOグループ主催の会に出席したことでした。約300人の出席者の中で、3割強がスモールビジネスをやっている方でした。その時、彼女達がたくさんの名刺を交換し、ビジネスの話をし、ビジネスについての具体的な話が進んでいくのを見て、とても貴重な場だと思うと同時に日本人の参加者が極めて少ないことを本当に残念だと思いました。こうした場が世界中にあり、まだまだ日本人がそういった場所に進出していないということは、大きな機会喪失です。そういった意味でもっとグローバルに視点を開くということをご提案したいと思います。
 Eビジネスについて、アメリカでは統計的にもいろいろな場面で女性がビジネスをリードしていることがわかります。では、なぜ日本ではまだまだなのかと考え、そこでITが果たす役割を話してみたいと思います。女性起業家や企業で働く女性にとっては、@ネットワークが弱いということ、A結婚や子育てによって働く環境に制約があるということ、B男性が培ってきたカルチャーという三つの問題点があります。Bは大きな障壁ですが、これを破る手段としてITは有効です。インターネットを使うためにはメッセージやをはっきりさせることが男女ともに必要で、男性だけにわかるというような従来のコミュニケーションは通用しません。またグローバルということについてもインターネットは大変有効です。日本の男性社会に限界を感じるなら、グローバルに飛び出すべきです。女性のアソシエーションは世の中にたくさんあるので、そういったところとグローバルネットワークを結び、いろいろなビジネスアイディアを得ることができれば、大きなアドバンテージを獲得することができます。これまでの事実として、アメリカで起きたビジネスが4、5年後に日本に入ってくることがよくあります。どこにビジネスの芽があるのか、どのようなニーズがあるのかということを自分の経験で作ることも大事ですが、早い方法は、アメリカで今何が起きているのかということをよく見極め、その中で自分が最も得意とする分野をネットワークによって日本に持ってくることです。
 ネット上は顔が見えないので、男女の違いもありません。また資金的な面ででも、アメリカのベンチャーキャピタルは疲れた男性よりも、がんばろうとしている日本の女性企業家に興味を持っています。このように女性にとってITを使った新しいビジネスの方法はとても有効です。グローバルにネットワークを広げ、新しいアイディアをどんどん取ってくるということを是非やってほしいと思います。
江上  疲れた男性より虎視眈々とエネルギーを貯めている女性を狙えという大変素晴らしい励ましのお言葉とアメリカのニュービジネスの芽を探せということでした。
田坂  今後IT革命が起こり、そのマーケットと女性企業家について考えてみた場合、何が起こるのかということですが、確かに女性には有利なマーケットがやってくるという気がします。それはIT革命やEコマースという言葉の本質に目を向けるとわかります。
 IT革命やEコマースを単に便利なもの、無店舗無店員の販売形態と勘違いしている人も多いけれど、横着なビジネスは決して成功しません。IT革命やEコマースの本質は、合理化、効率化、コスト削減ではありません。成功している電子ショップは、ショップマスターの人柄やサービスのきめ細かさがポイントであり、インターネットはハイテクですが、その本質はハイタッチにあります。その点で女性に有利というのがわかっていただけると思います。
 5年前にアメリカでネット革命が起こり、Eコマースがスタートした頃、盛んに「バイヤーセントリックマーケット」(顧客中心市場)ということが言われていましたが、今後は日本でもマーケットがそのように進化していきます。根本から性質が変わります。日本では昔からある精神論と思われるかもしれませんが、アメリカで言われた「バイヤーセントリックマーケット」は、極めて具体的な戦略論です。全てのビジネスモデルが企業中心から顧客中心に組み変わっていっていきます。直販やオークションがその例です。具体的にビジネスを顧客中心に組替えていく感性がなければ市場で勝ち残ることはできません。
 さらに顧客中心市場がやってきた後には、これまでのミドルマン(中間業者)・メーカー側を向いて商売をしていた販売代理業者に変わり、新しいミドルマン(中間業者)・顧客のニーズを把握し商品やサービスをを提供するもの、ドットコム企業などが生まれます。ネット革命でコスト削減ができるというのはビジネスの入り口の部分でしかありません。その後の顧客中心ビジネスでは、どこまで深く顧客のニーズを見つめることができるかという感性が必要になります。また、今後は顧客コミュニティーの時代でもあり、顧客コミュニティーにおける商品企画や評判情報などが重要な役割を持つようになっています。これら全ての流れを考えると、これからのIT革命、Eコマースの時代は、やはり女性に有利であると言えるでしょう。
江上  顧客中心のマーケットに変化していくというIT革命の時代ですが、このようなEビジネスの捉え方をどう思われますか。
野村  まさにバイヤーセントリックマーケットという現象が本当に起こっています。考え方を変えれば、自分が必要とするものを商売に転換しやすい時代で、ITがそれを助けてくれる時代だと思います。そこには男性女性ということはなく、あくまでも自分が一ユーザーであり、一ビジネスプロデューサーであると考えれば多くのチャンスが生まれてくると思います。
 しかし、チャンスが増え、ビジネスを起こすことは簡単になっても、ビジネスを継続させる力が備わっていない人が経済に参入することは、かえって市場の混乱を招くことになると思います。そうなると本当に進んで行かなければいけない方向性が見失われてしまうような気がします。
江上  女性にもチャンスが増えたということですが、アメリカと違い、ビジネスにおける失敗を許容する姿勢が備わっていない日本では、マネジメント経験などが少ない女性はどうするべきなのでしょうか。
内永  ビジネスには必ずリスクが伴います。問題は失敗した場合にどうリカバリーするかです。そういった観点では、現在はリカバーがしやすくなっています。例えばベンチャーキャピタルもそうです。新しいアイディアがあれば、再度チャレンジできます。
江上  例えばベンチャーキャピタルや銀行の融資といった資金調達の面で、女性については偏見的な見方が日本ではまだ強いと思いますが、そのような考え方は変わっていくのでしょうか。
内永  それはIT革新によって変わるものではありません。過去の失敗事例の蓄積や偏見は一つ一つ実績によって変えていくしかありません。ビジネスはリスクテイクの中にあるので、ビジネスをスタートする時にはいかにリスクを最小にするかということを考えておくべきです。ITという観点で言うと、ネットワークの中にあるインテリジェントインフラストラクチャーを上手に使うことによって初期投資が少なくて済むので、そういった方法をおすすめします。
江上  ビジネスにおいては男性女性ということではなく個人の実績が大切であるということ、そしてITを上手く使うことによって資金規模が少なくて済むということですが、これについていかがでしょうか。
田坂  少し別の角度からリスクをいうことを論じだいと思います。まず、インターネットやITによって効率的にビジネスが行えるということは入り口に過ぎないということです。今後のバイヤーセントリックマーケットにおいては、ビジネスモデルが根本的に変わっていきます。これは大きなテーマですが、さらにその先があり、資本主義マーケットの文化がこれからもっと変わっていくのです。私は、資本主義によるインターネットの利用ではなく、インターネット文化による資本主義の変容が起こると思います。コピーライトからコピーレフトと言われるビジネスモデルが生まれています。ここではコピーレフトのどこに利益が生まれるのかということよりも、こういった文化が生まれているという点に注目してください。
 成功の定義も変わっていくのではないでしょうか。失敗という言葉にはネガティブな印象がありますが、失敗の後の人間成長というものを見据えたベンチャービジネス論を考えるべき時がきています。やりたいことにチャレンジし、失敗しても人間的に成長することがベンチャービジネスにおける成功の定義とされるべきだと思います。個を大切にするという特徴を持つインターネットによって変わっていくマーケットとこうした価値観が深く結び付き、これからの時代を変えていくと期待しています。
江上  ビジネスの価値が社会的貢献に移っていくというスタイルをお話しいただきましたが、大企業はどのように変貌していくのでしょうか。
内永  興味深いお話ですが、ビジネスはビジネスであり、利益を生まなければビジネスはできません。ただ問題は、ビジネスのバトルフィールドが変わってきたということでしょう。社会貢献に価値を置くという傾向も否定はしませんが、日本はまだまだハングリーさが足りないと思います。ビジネスに対してもっと貪欲になるべきです。顧客中心主義というなかでビジネスのバトルフィールドは変わってきていますが、その中で他者に先行し利益を得ることが重要です。特にインターネットの世界では、先行者利益がもっとも重要です。ここでバトルフィールドの変化に注意することが必要になりますが、一つのヒントとしてアメリカの動きが良い指標になるでしょう。
江上  日本人はハングリーさが足りないということですが、働く日本女性の現状はいかがですか。
村木  やはり元気だと思います。雇用機会均等法ができた後の世代は、ある程度環境面の整備はされていたので、ハングリーという言葉が当てはまるかどうかは難しいですが、自分の能力をどう活かすかということをとても考えているので、そういった意味では、豊かでかつ元気な世代が出てきています。
江上  今後女性がインターネットを通じてビジネスを始めた場合、それを継続させていくにはどのような力が必要でしょうか。
野村  勉強しかないでしょう。今のアントレプレナーは豊かに育ったということが感じられます。そのような人達の欲求は、物質的な方向には向かわないこともあり、今語られているビジネスモデルもボランティア精神が元になっているものもあるようです。ただ反面、それは下で支えるアトラスの部分があってこそ成り立つものであり、その役割を今後はEビジネスが担っていかなければいけません。
 もう一つ大切なことは、アメリカの例にも見られるようにマネジメントのプロを短期間にたくさん生み出していくことです。ベンチャーにおける経営経験は失敗経験であっても社会では重要な意味を持ちます。そうした経験が優秀な経営者を育てることになります。そういった意味でもビジネスを起こそうという人はしっかり勉強してほしいです。
内永  開発途上国の若者のハングリーさや経験を積んできたアメリカのハングリーさを考えると日本はまだまだだです。ネットというものが広がりグローバルな社会になったとき、このような人達に負けないためには勉強するしかないと思います。ハングリーになるためには他の国にも目を向けることです。また、日本の大企業の中にいる経営者達から企業経営について勉強することも大切です。
田坂  アメリカや開発途上国に対抗するにはハングリーさが必要という論理はわかりやすいのですが、ハングリー精神は教育できるものではありません。むしろ、現実に豊かな生活を送ってきた日本人に欠けているのはハングリーさではなく、さらにその上を目指す志の部分であると思います。我々はハングリーさを求めるよりも世界で最も豊かな国に生きている者の使命を考えるべきです。それが文化の発展というものです。現実の競争社会において競争は避けられませんが、どのような価値観をもってそれを闘っていくのかが大切です。
内永  ハングリーという言葉がわかりやすいので、それを使いましたが、貧乏になれと言ったわけではありません。日本では横並びの価値観が重視されていますが、アメリカのように自己実現に対して、ビジネスを成功させるということに対してハングリーになってほしいということです。ビジネスをどう組立てるかということにあたっては、グローバルな場面にどんどん出て行ってほしいと思います。

会場との意見交換
男性  大企業はベンチャーと同じ市場に参入するべきか、それともインフラ提供にまわるべきでしょうか。国にはこうした情報ネットワークの構築をお願いしたいと思います。
野村  ベンチャーに対して、大企業が参入するのは仕方ないでしょう。結局はユーザーが選択するものだと思います。また、企業内の起業も大切だと思います。新しい価値を生み出せる人が生まれることが重要です。
内永  IBMはインフラを提供します。ベンチャーの強みは細かなニーズの把握と機動力だと思   います。うまく競合していければと思います。
田坂  大企業は中に抱えている人材をもっと活用すべきです。日本でも産業構造を変えるようなメガベンチャーが生まれるべきです。しかし、市場には大企業のインフラを使ってメガベンチャーを作れるようなアントレプレナーが少ないという問題があります。
村木 情報ネットワークの構築はまさに国がやらなければならない事業だと思います。女性に関して言えば、「女性と仕事の未来館」を企業支援や情報共有の拠点にしていきたいと思います。
男性  グローバルとハングリーについてもう少し説明してください。
内永  グローバルな視点というのは、アメリカなど世界中に広く目を向け、そこにビジネスのニーズを探すということ、いろいろなネットワークの中でビジネスパートナーをく作っていくということです。それによってビジネスの対象も世界中に広げることができるので、ビジネスのステップアップ速度も速くなるでしょう。こいった部分についてハングリーになっていただきたいということです。
男性  英語は欠かせないということでしょうか。
内永  Eビジネスでは英語は本当に必要だと思います。英語は避けて通れません。
江上  本日はいろいろな方面から可能性を示唆するお話をたくさんいただきました。どうもありがとうございました。